私は昔から、「来店サイクルを短くするために、次回予約を取るべきだ」という考え方に、どこか違和感を持ってきました。
誤解のないように言っておくと、お客様の来店頻度が高いこと自体を否定したいわけではありません。 違和感の正体は、「その経営モデルを、自分自身が本気で好きでやり続けられるものなのか?」 という問いから導き出されたものなので、それを今回記事にまとめてみました。
これは一スタッフだった頃から持ち続け、経営者になった今でも変わらない、私の根幹にある考えです。
目次
私の経営哲学:結果として「サイクルが伸びる」設計
まず、私自身のスタンスを整理します。 私は長年、以下のような考えでハサミを握ってきました。
「できるだけ持ちの良いスタイルを提供すれば、来店サイクルは結果として当然長くなる」
スタイルの持ちが良ければ、お客様は無理に通う必要がありません。金銭的にも、時間的にも、お客様の負担は確実に減ります。
すると何が起きるか。
-
-
無理な囲い込みをしなくても定着率が上がる
-
結果として失客率は下がる
-
広告費を一切かけなくても予約が埋まる
-
顧客が自然に積み上がり、毎日予約で埋まる
-
私の場合、一日の施術人数は常に上限に近い状態になります。これは「少ない客数を短いスパンで回すモデル」とは、構造が異なります。
顧客母数が増えることで、仮に一人が失客した際の影響割合は相対的に小さくなります。 また、実際、私はこの18年間、集客のための広告費を一切かけていません。それでも、失客した穴を埋めるために奔走することなく、すぐに予約が埋まります。
(広告費をかけるのが当たり前の今の業界では信じられない話かもしれませんが、都心の激戦区で普通にこれを実践しています)
つまりこれは、単なる職人の感情論ではなく、**極めて合理的な「経営上のリスクヘッジ」**でもあるのです。
「来店サイクル短縮」を肯定する視点
一方で、世の中で推奨される「来店サイクルを短くする考え方」にも、十分に理にかなった側面があります。 この点については、サイクル短縮を実践して成功している友人の意見が非常に参考になります。
彼の主張はこうです。
「美容室が過密な競争環境にある以上、客数依存ではなくスタッフの稼働率を高める必要がある。生産性を高めるためにサイクル短縮は合理的であり、その手段として次回予約がある」
さらに彼はこう付け加えます。

「次回予約は単なる売上確保ではない。適切なヘアケアの必要性を理解してもらう**『啓蒙・育成プロセス』**として価値がある。このプロセスを丁寧に行えば信頼関係が生まれ、結果的に単価も上がりやすい」
ただし、「価値提供を省いて、経営側の都合だけで無理に次回予約を取らせるのは本末転倒だ」とも彼は言います。 この考え方自体は、私も極めて合理的だと思います。
「正解」ではなく「選択」の問題
この議論を通して感じるのは、これは「どちらが正しいか」ではなく、「どちらを選ぶか」の問題だということです。
結局のところ、
-
どんな美容師になりたいのか
-
どんな美容室にしたいのか
-
どんな働き方をしたいのか
-
どんな人生を送りたいのか

この前提によって、「合う経営モデル」は180度変わります。
私自身は、 「職人として技術に向き合い続けたい」 「必要以上に拡大せず、長く続けたい(ボケ防止も含めて笑)」 「無理なく修正できる余白を残したい」
そう考えると、お客様に美を維持し続けるための教育(啓蒙)をしつつ、来店サイクルを短くするという設計は、自分の肌には合わないという結論になります。
教育型モデル(サイクル短縮)の懸念点
なぜ私が教育型モデル(サイクル短縮)を「合わない」と言い切れるのか。あえてその懸念点を挙げながらお伝えすると、「啓蒙・育成」というプロセスはお客様と自分自身を疲弊させるリスクがあると思うからです。
お客様も最初の数回は、「自分の美しさを管理してくれる」ことに安心感を覚えるでしょう。しかし、回数を重ねるうちに違和感を持つケースも出てきます。以下は、そういうお店に通ったことがあるお客さんから何度も聞かされた内容です。
-
「自分はそこまで強く“美”にこだわっていただろうか?」
-
「私の人生においてここまで意識を美に向け続ける必要があるだろうか?」
- 「お金がもたない…」

来店サイクルが短くなれば、当然ながら経済的な負担も増えます。その対価として、常に一定以上の「感動」を提供し続けなければ、失客につながりやすい構造になります。
そして、「常にお客様に感動を与え続けなければならない」という前提は、スタッフにとっても重荷になりがちです。また、高い緊張感を維持し続ける現場で、それに見合う報酬や評価が伴わなければ、離職につながるでしょう。
昨今の美容室倒産の増加要因である「新規集客への依存」「広告費の増大」「人手不足」は、こうしたモデルの運用バランスが崩れた結果とも言えるのではないでしょうか。
私のモデル(技術特化・長期サイクル)の落とし穴
もちろん、私の選んだ道にも明確な弱点があります。
それは「長持ちするスタイルを安定して提供できる美容師」を育てること自体が、極めて困難ということです。
ひと昔前は「一人前になるのに5年」と言われていました。近年は短縮傾向にあるとはいえ、基礎的な技術や感覚の習得に時間がかかる事実は変わりません。 その長い下積みの中で、「もっと華やかな仕事だと思っていた」と理想と現実のギャップに苦しみ、辞めていくスタッフも少なくありません。

また、仮に立派に育った場合、そういうスタッフは「独立したい」と思い始めるのが自然な流れでしょう。それを引き留めるためには、やはりそれに見合う報酬や評価が必要になってきます。
言葉は悪いですが、それでは**「経営的においしくない」**と感じるオーナーが、店舗を拡大したいという思いから、個々の資質に依存せず再現性を重視した「コンサル主導型モデル」を選んだ——そうした時代背景があったのです。
この問題を解決するために独立支援システムを導入するなど、業界が色々な試行錯誤をしてきたのを私は見ています。 しかし、私は店舗展開には見切りを付けています。なぜなら、それが自分に一番合っていると感じたからです。
ズレは、後から必ず「違和感」として表に出る
顧客の教育を重視するのか、技術力を軸に据えるのか。 どちらにも明確なメリットとデメリットが存在します。
最大の問題は、それらを理解しないまま、コンサルの言いなりになったり、表面的な理想だけを追い求めたりして、「自分に合わないモデル」を選んでしまうことです。

自分に合わない設計を続けていると、すぐには表に出なくても、後になって必ず「ズレ」として現れます。
「こんなはずじゃなかった」 「美容室の仕事は、思っていた以上にきつい」
これらは、本人の能力や根性が足りないから起きるものではありません。多くの場合、最初に選んだ働き方や経営モデルとの「相性(マッチング)」の問題です。
若いうちは無理ができても、その無理は蓄積され、ある時点で限界を迎えます。
だからこそ、できるだけ早い段階で複数の経営モデルを知り、それぞれのメリットとデメリットを理解しておくことが重要です。
理解したからといって、どちらが自分に合っているかを判断するのは正直難しいでしょう。だからこそ出来るだけ早く知って、選択する時間を出来るだけ確保すべきだと感じます。
ですので、本来はこうした「経営モデルと働き方の相性」という視点こそ、美容学校などの教育機関で共有されるべきではないか——。 そう思うほどに、事前のミスマッチを防ぐことは、美容業界全体の課題だと感じています。
今回ご紹介した経営スタイル以外に、もっと良いものがあるよという方は、是非教えていただけるとありがたいです!